ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「……私は」
「本当になにも言われてないの? 出張中に俺、『爆発しやがれこのハイスペック野郎が』って何回思ったか分かんないくらいなんだけどな。さんざん惚けといて、なのに付き合ってねえとか意味分かんねえよ」

 瞼が潤み始めたタイミングでそんなことを言われ、つい笑いそうになる。
 沓澤課長、三浦さんになにを喋ったんですか、それも出張中に。私には連絡一本入れてくれなかったくせに。

 コロッと落ちたら、その瞬間に切り捨てられるかもしれない。
 その不安は、いまだに私の心の底へべっとりと貼りついている。きっと他の人には分からない種類の不安だ。
 この不安を取り除けるのはひとりだけ。それから、私自身が自分の悪癖と決別して、正しく前を向けるようにならなければ。

 でも。

「沓澤課長は、変に勘違いしないタイプだろうと考えて私を選んだだけです」
「うっわマジでなんなんだよあいつ、落ち込む資格もねえんじゃんかよ~~~」

 今日二度目の舌打ちは一度目よりも露骨だった。もしかしたら三浦さんは、沓澤課長にだけではなく私にも苛立っているのではないかと思えるほどに。
 そのせいで、弁解するつもりはなかったのに、言い訳じみた言葉が口をついてしまう。
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