ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~

《2》夜を駆け抜ける

 翌日、金曜。
 昼休憩中に沓澤課長から連絡が入った。

『話したい。予定は合わせる』

 用件のみの内容に、思わず声が出そうになった。
 昨日の今日ということを考えれば、三浦さんが沓澤課長に、給湯室での私とのやり取りについて伝えた可能性もある。そう思うとなおさら憂鬱だった。

 簡素な文言と、それを伝える無機質な文字――嬉しさと寂しさと緊張がごちゃごちゃに入り混じった気分だ。心臓が嫌な痛みを訴えて、返事は早いほうがいいという気持ちばかりが勝手に急ぐ。
 考えすぎればその分だけ返しにくくなると分かっていたから、『今夜なら』と返した。明日以降の休日に持ち越してしまいたくなかったし、週明けなんて待っていられない。

『分かった。仕事が終わったら連絡する』

 返事は早かったものの、またも簡素なメッセージが届いたのみだ。
 顔を合わせずに済むやり取りは、感情が表れにくくて助かる。メッセージを送信する指先をカタカタと震わせながら、心底そう思った。

 午後からも、平静を装って働けばいい。
 この一週間で、そういうことにはだいぶ慣れた。だから今日もきっと大丈夫だと、無理やり思い込んだ。
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