ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「もしもし?」

 消え去りたい。
 なんだ、この微妙な修羅場感。

 短い沈黙の後、沓澤代理は通話を終わらせた。他人の端末だというのに、操作が異様にスムーズなのはどうしてか。そんなことを考えていると、結局それ以上通話で声をあげなかった沓澤代理は、私の手にスマホを押し戻してきた。
 最初のひと言以外、沓澤代理はなにも喋っていない。ということは、雄平は、私宛ての電話に男性が応じたために、動揺してすぐに通話を切ったのだ。

 その相手が沓澤代理だと、雄平は気づいただろうか。
 先ほどまで雄平自身も居合わせた給湯室、私と沓澤代理だけがこの場に残ったところを見ているのだから、想像はついていると思いたい。いや、それよりも。

 浮気ゆえの別れ話だったのかと、雄平に誤解されたかもしれない。
 それではあまりにつらすぎる。冗談半分の暴言に辟易して、ようやく別れの覚悟を決めて、なのにすべてが私の不実によるものだと思われてしまうなんて。

「……困ります」

 思った以上に冷えた声が出た。
 落ち着き払った自分の声を、自分こそが意外に感じるくらいの。
< 21 / 242 >

この作品をシェア

pagetop