ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
足を踏み出す。目的地は決まっていた。自宅ではない。
今踏み出さなければ、私はまた同じことを繰り返す。そうこうしているうちに、今度こそ本当に大事なものを失ってしまう気がしてならなかった。
そして、一歩足を踏み出した、瞬間。
「あ……?」
ぶるぶると振動する感触が手のひらを伝い、ようやく、私は左手にスマートフォンを握り締めていたことを思い出した。振動は腕から全身へ伝わっていく。喉が勝手にこくりと動き、急いで画面を確認する。
画面に表示されている名前を見て、目を見開いた。
ドラマじみた展開が現実に起こっている。醒めきらない夢の中を漂っている気分にさせられ、それを強引に振りきり、私は通話ボタンをタップした。
「はい」
声を出したら、涙も一緒に出た。
屋外にもかかわらず遠慮なく零れ落ちるそれは、発声の邪魔ばかりして、続く言葉はきちんとした音にはなってくれない。
『那須野?』
「っ、ふ……」
『どうした? 今どこにいる?』
焦りの滲む声と、バタンとドアの閉まる音が、ほぼ同時に耳へ届く。
もしかしたら彼はまだ社内に残っているのかもしれないと、ぼうっとする頭で思う。
声を聞いたら一気に気が抜けた。
ぎりぎりの一線でなんとか保てていただけの緊張がぶつりと切れ、溜め込んでいた気持ちが声になって溢れる。
今踏み出さなければ、私はまた同じことを繰り返す。そうこうしているうちに、今度こそ本当に大事なものを失ってしまう気がしてならなかった。
そして、一歩足を踏み出した、瞬間。
「あ……?」
ぶるぶると振動する感触が手のひらを伝い、ようやく、私は左手にスマートフォンを握り締めていたことを思い出した。振動は腕から全身へ伝わっていく。喉が勝手にこくりと動き、急いで画面を確認する。
画面に表示されている名前を見て、目を見開いた。
ドラマじみた展開が現実に起こっている。醒めきらない夢の中を漂っている気分にさせられ、それを強引に振りきり、私は通話ボタンをタップした。
「はい」
声を出したら、涙も一緒に出た。
屋外にもかかわらず遠慮なく零れ落ちるそれは、発声の邪魔ばかりして、続く言葉はきちんとした音にはなってくれない。
『那須野?』
「っ、ふ……」
『どうした? 今どこにいる?』
焦りの滲む声と、バタンとドアの閉まる音が、ほぼ同時に耳へ届く。
もしかしたら彼はまだ社内に残っているのかもしれないと、ぼうっとする頭で思う。
声を聞いたら一気に気が抜けた。
ぎりぎりの一線でなんとか保てていただけの緊張がぶつりと切れ、溜め込んでいた気持ちが声になって溢れる。