ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 私を抱えて室内を横断していくあなたの歩みは速い。
 自分で歩きます、と抗議の声をあげたものの、受け入れてはもらえなかった。「逃げられそうで怖い」と呟く声からはまたも余裕が削げている。

 いわゆるお姫さま抱っこと呼ばれる状態は、想像よりも遥かにバランスが取りにくかった。気を抜けばすぐにも床に落とされてしまいそうで、そわそわして落ち着かない。
 リビングを通り過ぎていく中でちらりと見えたテーブルの上には、見覚えのある飴缶が置かれていた。柚子はちみつ味のキスを思い出し、頬が熱くなる。

 ベッドの上に下ろされ、着ていた秋物のコートをあっさり剥ぎ取られた。
 間を置かず、あなたは私の上に圧しかかってくる。逃げ場のなさも、彼自身からひしひしと伝わってくる色濃い緊張も、どちらもひたすら心地好い。
 真上に迫る首へ腕を巻きつけ、私は自分から口づけをせがんだ。目を見開いたあなたは、けれどすぐに意地悪そうな顔で微笑み、早々に私から主導権を奪ってしまう。

「へぇ。積極的」
「だ、だって」
「いいよ。もっと吸って」

 繰り返される口づけに没頭する時間は、長くも短くも感じた。
 寝室内にはその音だけが響き渡り、その頃になってようやく私は羞恥を覚える。
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