ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 う、と掠れた声を零すと、あなたは笑みを深めて私の首筋に指を伸ばしてくる。
 ブラウスのボタンにかかる指先の感触のせいで、私は一気に現実へ引き戻された。

「あ、あの」
「喰われる覚悟でついてきたんじゃねえのか」
「違います! わ、私はむしろ追い返される覚悟で」
「そりゃ残念だったな」

 制止の声は完全にスルーされてしまった。
 はだけた鎖骨へ唇を寄せられ、切羽詰まったような声が漏れる。鎖骨に気を取られていると、大腿を緩く撫でられた。不意打ちに近いその行動に、喉が音を立てて鳴る。
 部屋に入ったとき彼が点けた常夜灯が、妙に鮮やかに目を焼く。オレンジ色の淡い光に照らされたあなたの瞳は、心なしか潤んで見える。

「あの夜、抵抗されなかったらあのまま襲うつもりだった」

 あの夜、という言葉に全身が強張る。
 残業、キスマークの上塗り、大腿を這う長い指――思考が思考を呼び、鼓膜を蕩かす低い声や、耳たぶを食むやわらかな唇まで思い出してしまう。
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