ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「っ、ちょっと、待っ……」

 空気が急激に甘さを増したことだけは理解できた。
 この手の行為に慣れない私は、言葉で制止する以外に術を持たない。なにを言っても引いてもらえないだろうとは分かっている、でももう少し段階を追ってからこうした空気に辿り着いてほしいと思ってしまう。

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか上体を押し倒されていた。
 唇と唇が重なる寸前、慌てた私はなんとか力を振り絞り、彼の筋肉質な腹部を緩く押し返す。

「あ、あの、前から思ってたんですけど。課……沓澤さん、こういうことに慣れすぎじゃないですか?」
「いや別に普通だ」
「嘘!」
「嘘じゃない。俺はあんたに嘘なんかつかない、前にも言った」

 触れ合う唇は、くすくすと笑う吐息が交じって擽ったい。
 何度か触れては離れてを繰り返した後、じゃれ合うような口づけは唐突に深いそれに変わる。

「ん、う……」
「コーヒー冷めちゃうな。まぁいいか」

 全然良くない、と叫びかけたものの、結局声にはならない。
 間を置かず再開されたキスに翻弄され、それきり、私は抗議の機会をまるごと見失ってしまった。
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