ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「いえ……」

 無理に絞り出したに等しい掠れきった声になった。
 それを聞いた沓澤課長が、満足そうに笑みを深める。そのまま、掠め取られるようにキスを落とされた。

 一度こうなれば、そこからは完全に彼のペースだ。
 そしてなにより困った点が、私自身がそれでいいと思ってしまうこと。
 それも、いつも同じだ。

 思わず零れた笑い声に、沓澤課長は不思議そうに目を瞬かせた。
 けれど理由を尋ねてくることもなく、愛おしげに私の髪を梳き始める。

「まぁ結婚に関してはゆっくり考えてくれ。決めてくれるまで逃がさないけど」
「選択肢ひとつしかないじゃないですか、それ」
「当たり前だ。あんたが思ってる以上に必死なんだ、俺は」

 こつんと額を重ねられ、とうとう堪えきれずに噴き出してしまう。
 絡められた指のぬくもりに酔い痴れ、甘い口づけを期待しながら、私はうっとりと目を閉じた。



〈了〉
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