ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 人の端末に同じ情報を直接入力しておいて、どうしてわざわざ。
 念には念を、という意味だろうか。あるいは、たまたま端末に触れられる状況ができただけなのかもしれない。

 事前にこれを用意していた以上、最初から最後まで完全に狙ってやっていたということか。雄平からの詰問も、そこに割って入ったことも、それをネタに私に無茶な依頼をしてきたことも、全部。

「勘弁してくださいよ……」

 私以外誰もいなくなった給湯室の電気を消しながら、思わず声が出た。
 自分でも引くくらい弱りきった声だった。

 断れなかった。
 溜息をついたところで、状況はどうあっても変わらない。
 少なくとも今日はもうなにもできない。

 憂鬱を引きずり、私は給湯室を後にする。
 結局、私は流されるようにして、沓澤代理の〝恋人役〟なる謎のポジションを引き受ける羽目になってしまった。
< 25 / 242 >

この作品をシェア

pagetop