ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 とそのとき、自席に座っていた沓澤代理がおもむろに立ち上がった。
 ぐるりとデスクを回って私の傍まで歩みを寄せた彼は、隣の席――普段は他のスタッフがかけている席だ――に座り、まじまじと私の顔を覗き込み始めた。

 な、なになになに、仕事中ですよ。妙な行動は謹んでいただきたい。
 指が強張る。思えば、さっきからバックスペースキーしか打てていない気もする。

「指、案外しっかりしてんだな」
「はッ、はい?」
「なんつうか……骨太っつうかさ。ああ、悪い意味じゃねえんだけど」

 言葉を選ぶ素振りこそ窺えたものの、結局選びきれていない。
 そつのない対応が得意な沓澤代理らしくない気がして、私は思わず苦笑する。

 就職して以降、ピンポイントでそこへ触れてくる人がいなかっただけで、学生時代には周囲によく意外がられていた。だから慣れている。
 要するに、私は指が少し……いや、だいぶ太いのだ。

「いいですよ、慣れてるので。私、昔バレー部だったんです。これはつき指の痕です」

 沓澤代理の視線が、いまだにぽっこりと腫れて見える右手の人差し指の関節に向いている気がして、私はそう説明する。
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