ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
     *


 三日後、金曜。
 日中にイレギュラーな業務が入って、準備が先延ばしになったらしい。週明けに迫った会議の準備のため、沓澤代理が残業をすると聞いた私は、控えめに手伝いを申し出た。先日のミーティング後、事務業務を手伝ってもらったお礼を兼ねてと考えたのだ。
 断られる覚悟もしていたけれど、意外にもあっさり承諾された。むしろ『助かります』と頭を下げられた。そんな反応ではこちらが恐縮してしまう。

 時刻は、午後八時を回っている。
 中途半端にして途中で帰るのは気が引けた。プレゼン用の資料の誤字脱字を探したり、印刷した分をクリップで綴じたり、やや地味な作業をふたり揃って黙々と続ける。

 時間はいいのか、と五回は訊かれた。それ以降は訊かれていないし、訊かれなくなって一時間が過ぎた。
 六月中旬、一年で最も日の長い季節に差しかかったとはいえ、窓から見える景色はとうに夜一色だ。三階の窓からは幹線道路を走る車のヘッドライトが覗き、チカチカと私の視界を過ぎっては流れていく。

 午後九時直前、ようやくひと通りの支度が完了した。
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