ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「そんなことないです。今回だって、実力がきちんと評価された結果だと思います」

 余計な言葉に、余計な言葉をさらに重ねる。私はなにが言いたいんだろうと辟易しそうになって、でも伝えずにはいられなかった。
 ムキになっている気がする。相手も同じことを思っている気もする。
 沈黙が落ち、急に恥ずかしくなった。妙な空気になってしまったことを悔いて、けれど自分にはどうにもできない。居た堪れなくなって顔を伏せたそのとき、沓澤代理が普段よりもトーンの高い声をあげた。

「まあいいや、それよりまずは週明けの会議だな。無事に終わったらなんか褒美くれよ」
「な、なんでですか、むしろ私がほしいくらいなのに。あ、今日の分って残業つけてもいいですか」
「当たり前だろ、俺もつける。上には俺から言っておく」

 重苦しい空気を一蹴する沓澤代理の軽口に、私もなんとか軽口を返す。
 案外、そういうものはうまくいってしまう。私が自ら引き起こした事故のような雰囲気は、瞬時に掻き消えてくれた。

 んん、と腕を上げて伸びをする沓澤代理は、よく見ると欠伸(あくび)までしていた。
 ジャージに寝癖に眼鏡ではないだけで、あの日と同じ姿を見ている気分だ。隙だらけというか、なぜか見ているこちらこそ焦りを覚えそうになる。
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