ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「あとあんた、嫌がらせってあれから大丈夫か?」
「は、はい。特にはなにも」
「そうか。もう隠すなよ」

 笑う沓澤代理はやはり隙だらけに見え、困ってしまう。
 大丈夫です、と口角を上げるのが精一杯だった。実際、最近はこれといった嫌がらせは受けていない。
 それよりも私が恐れているのは、この人自身の、不意打ちに近い仕種や言動だ。

「那須野。今日のラインナップは?」
「えっ? ああ、飴ですか?」

 さも当然のように問われ、一瞬なんのことか頭がついていかなかったけれど、すぐに例の飴缶を指しているのだと気づく。
 持ち歩く飴缶の種類を、私が毎日変えていると知った沓澤代理は、それ以降ずっとその調子だ。名前も、普段は〝さん〟をつけて呼ぶくせに、今はふたりきりだからか呼び捨てになっている。

 学生時代に戻った感覚。先輩と後輩、部活仲間みたいな感じ。
 このところよく感じているこれが、楽しくもあり、同時に怖くもある。むやみに浮ついてはならないと、勘違いだけはするなと、もうひとりの私が心の中で声高に叫んでいる。それを自覚しながらも、私はにこりと微笑んだ。
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