ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「ゆず?」

 カップを手に固まったきり、つい巡る思考ばかりに集中してしまっていた。
 心配そうに声をかけられ、私ははっと我に返る。

「な、なんでもない」

 自分の声は掠れきっていて、物騒なことを考えている頭の中身をすべて晒している気にさせられる。
 落ち着きに欠ける私の態度に気づいたらしい果歩は、声のトーンを上げて話題を変えた。

「ええと、仕事のほうはどう? 無理はしてない?」
「あ、うん。残業も今は落ち着いてるし、あってもそのときは沓澤代理が手伝ってくれるから」
「ほほう、沓澤代理が……そうですか」

 言ってしまってから、私は馬鹿なのかと内心で頭を抱えた。
 これでは果歩の気遣いも台無しだ。せっかく変えてもらった話題に、わざわざ自分から彼の話を返すだなんて。

「あっ、別に変な理由とかではなく、ほら、事務の業務は沓澤代理がいろいろ詳しくて、だから」

 言葉を重ねれば重ねるほど、墓穴を掘っている気分になる。
 屁理屈じみた私の言い分を耳にした果歩は、ほんのりと薄い微笑みを向けてきた。居た堪れない気分になり、私はカップに残っていたコーヒーを一気に煽る。
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