ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 同じくその破片を目に留めた果歩は、諦めたように笑った。
 そしておそらくわざと、普段よりもワントーン高い楽しげな声をあげる。

「まぁなんていうか、しばらくはフリーだよって話なのね! 久しぶりだからちょっと怖いよね!」
「……うん。でも果歩ならまた見つかるよ、いい人」
「うーん。なんかもう、しばらくはいいやって思ってる、実は」

 笑う果歩は、なんだか無理をしているみたいだ。
 かといって、それを真っ向から指摘するのは間違っている気もして、私はただ曖昧に口元を緩めるしかできない。

「ゆずの気持ち、やっと分かった気がする。独り身ってもっと寂しいものだって思い込んでたけど、いろいろ軽いね」
「……うん。そうかも」

 軽い。
 そう、軽いんだ。

 重いものを地面に下ろして、それを置き去りにして進む。
 身が軽くて、普段よりももっときちんと周囲に目を配って歩けている気がして、けれど一度ついた傷はなかなか癒えない。自分が思い描いているペースでは治らない。
< 98 / 242 >

この作品をシェア

pagetop