ビター × スイート
膝の上。

何か掛けられたような重みを感じる。

トントン、と、肩に触れられる感覚は、心地が良くて、ますます深い眠りに落ちそうになる。

「君、起きて」


(・・・んー・・・)


「ここにいても、朝まで電車来ないから」


(・・・はーい・・・)


「君」


(んー・・・、もう、わかってますって・・・)


「・・・起きなさい」

「・・・、ん・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・・・・。起きろ!迷惑だぞ。駅員さんが困ってる」


(!?)


「は・・・、はい・・・っ!!」

「迷惑だ」「困ってる」という単語が耳に飛び込んで、私は弾かれるように目を覚まし、嘘のようにベンチからすっくと立ちあがる。

そして、条件反射で「すいません課長!!」と、目の前の人に頭を下げた。


(ああ・・・、頭がぐるぐるする・・・、って、あれ・・・?)


バサッと、何かが落ちる音がして、見ると、私の足元に男物の背広のジャケットが。

まだ酔いが醒めていない私の頭に、「?」のマークがぐるぐる回る。

「・・・やっと起きたか・・・」

前方、斜め上から呆れたような声がした。

私は頭を持ち上げて、その、声の方へと目を向ける。

と、高身長、Yシャツにえんじ色のネクタイをしたコワモテの男性と目が合って、心の中で、私は小さく「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。


(え、えっと・・・!?)


頭を整理するように、私は、何度か瞬きをする。

目の前の・・・男性は、コワモテだけどなかなかかっこいい。ガタイがよくて、どこかのダンスボーカルグループにでも所属していそうな雰囲気だ。

年齢は私より少し上・・・、30歳くらいかな?

画面越しに見るのはいいなと思う容姿だけれど、実際に関わるのは正直怖いと感じるタイプ。

男性は、落ちた背広を拾い上げると、身構える私を呆れたように見下ろした。

「・・・不用心だぞ。こんなところで寝るなんて」

怒ったようにそう言うと、男性は、はあっと大きく息を吐く。

と、少し離れた場所にいた年配の男性駅員さんが、私たちの元に駆け寄った。

「よかった!起きましたか」

私を見るなり、ホッとした様子の駅員さん。

もしかして・・・と、私は徐々に、今、この状況を理解し始める。

「お客さん、ここで眠ってしまって、声をかけても全然起きなかったんですよ。困っていたら、たまたま通りかかったこちらの四宮さんが、警察官だって言うもんで、一緒に対応してもらってたんです」

「警察官・・・」

ポカンとする私の目の前に、証拠だ、と言わんばかりにコワモテの男性・・・四宮さんは、警察手帳を見せつけた。


(ほ、本物・・・!!)


実物を見るのは初めてだけど、直感で、これは絶対に本物だっていうのを理解する。

私は再び、「すみません・・・!!」と大きく頭を下げた。

「ご、ご迷惑をおかけしました・・・!!」

「・・・君、向かい側のホームから盗撮されそうになってたぞ。そんな服装で・・・、酔って寝るなら場所選べ」

「は、はい!すみません・・・!!」

私は、ひざ丈スカートの裾をぎゅっと押さえた。

スカートでベンチで寝てただなんて・・・、私は、相当際どい格好をしていたのだと思う。
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