ビター × スイート
3年間付き合っていた彼氏の裏切り。

これほどまでに、絶望を感じたことは初めてだった。

本当に、全てのことが、もう、どうでもいいと思った。

もう、本当にどうでもいいや。

どうでもいい・・・けど、さっきのことだけは忘れたい。

そう思ったら、お酒を急に飲みたくなって・・・、近くにあった居酒屋で、ひとりグビグビお酒を飲んだ。

どのくらいの量を飲んだだろ。

気づいたら、駅のホームで四宮さんに起こされた。駅員さんにも迷惑かけた。

冷静になると、色々恥ずかしくなってきて、反省もあり、私は暗い気持ちでうつむいた。

「・・・君、名前は」

声がして、はっとした。

気づいたら、いつの間にか、ひと気のない、タクシー乗り場の後方にあるベンチに腰をかけていた。

手にはミネラルウォーター。

隣には、四宮さんが少し距離を置いて座ってる。

「あの・・・」

「・・・名前を聞いた。君の名前は?」

「え、あっ・・・、はい。木更津乃亜(きさらずのあ)といいます」

「・・・木更津さん・・・。少しは落ち着いたか」

「は、はい。・・・すみません・・・」

頭はまだぼんやりしている。記憶が途切れ途切れな感覚。

けれどこの状況・・・、多分、四宮さんは、駅のホームからエレベーターに私を乗せて、その後、ミネラルウォーターを買ってここに座らせてくれたんだ。

・・・やばい。すごく迷惑をかけてしまった気がする。

「明日って、君は仕事は休み?」

「・・・、はい」

「そうか。じゃあ、タクシーも来ないみたいだし、場所を変えて話を聞かせてもらおうか。続きが気になる」

「・・・え?続き・・・?」

「・・・覚えてないのか。『朝からツイていなかった。寝坊はするし眉毛は描いてなかったし、仕事でミスは連発するし、それになにより・・・』の続き。君、そこで突然泣き出したから」


(・・・え!!)


ど、どうしよう。

そのへんの記憶がまるでない。

このベンチに座ってタクシーが来るのを待つ間、私は、四宮さん相手に今日の不運を語っていたみたい。

なんてこと。アルコールの力は恐ろしい。

「あれで終わりにされるとオレが困る。とりあえず、ついてきて」

「え、あ、あの・・・!」

終電も終わった深夜。

初対面の男性からの「ついてきて」なんて誘いは怖すぎる。

今までは、相当無防備だったから、今更過ぎる恐怖だけれど・・・。

とはいえ、四宮さんは警察官だ。

私を交番や警察署まで連れて行き、色々と話を聞くつもりでいるのかもしれない。

だって、駅のホームで酔って寝て、駅員さんにも迷惑をかけた人間だもの・・・。


(いわゆる事情聴取、というやつだよね・・・)


不安だけれど、警察官の申し出を断るなんてできなくて。

私は、覚悟を決めて「わかりました」と頷いた。








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