ビター × スイート
四宮さんに連れて来られた場所は、交番でも警察署でもなくて、駅近くにあるバーだった。

大通りに面しているし、ガラス張りで明るい印象のお店だけれど、予想外の場所なので、違う意味でちょっと不安になってくる。

お客さん、今は誰もいないようだし・・・。

四宮さんに見せてもらった警察手帳は、直感で本物だって思ったけれど、あの時、私は今よりぼうっとしてた。あの時の私の直感は、当てにはならないかもしれない。

この店は、怪しい店ではないのだろうか・・・と、不安になって、入るのをためらっていると。

「心配ない。友人がやってる店だ。2時までは開いてるから」

四宮さんは、私が閉店時間を気にして入店をためらっていると考えているようだった。

そうじゃない・・・と思ったけれど、それを口に出す時間もないままに、四宮さんはドアを開けてお店に入る。

と、「いらっしゃーい」という声がして、見ると、軽そうな雰囲気の30代前半ぐらいの男性が、こちらに向かって笑顔を向けた。

「・・・て、なんだ、琉世(りゅうせい)じゃん。なにー?デートの帰りかよ」

店主であろう男性は、にやにやしながら四宮さんに話しかけてきた。

この人が、四宮さんの友人なのだろう。

「でもよかったなー。おまえ、二度と彼女とかできないだろって思ってたわ」

「・・・彼女じゃない。勝手に色々決めつけるな」

「いやー、だってこの時間だよ?琉世だよ?友達女子は連れて来ないでしょ」

「ま、とりあえず座って座って」と、店主であろう男性に促され、私と四宮さんはカウンター席の・・・ひとつ分の席を開け、隣に座った。

カウンター席しかないお店。合計6席。こじんまりとしているけれど、ほどよい広さで、狭い、という感覚は不思議となかった。

店主であろう男性は、目が合うと私ににこっと微笑んだ。

「僕はここの店主でこいつの友人。麻生って言います。おねーさんは?」

「木更津乃亜です。初めまして・・・」

「のあちゃん!かわいい名前だなー。年いくつ?」

「え、えっと・・・、28です」

「28!いいね~、一番いい時期だ。で、何飲む?」

「え・・・、と・・・」

席に座るなり、店主の男性・・・麻生さんに、真正面からぐいぐい質問される。

人懐っこく、やっぱり軽めの印象だ。

どことなく、ちょっと祐也に似ているような・・・、そんな警戒感から、私は少し身構える。

「・・・麻生。客とはもう少し距離取れって前にも言っただろ」

「取ってるよ。ちゃんとカウンター越しに話してるし」

「それでも近い。あと、物理的な距離だけじゃなく、おまえは全部の距離が近すぎる」

「えー・・・、遠いよりいいじゃんねー」

と、麻生さんは私に同意を求めたけれど。

私はそれは人による・・・と思うので、そのままそれを伝えると、麻生さんは「そーなんだー!」と言って笑った。

「ま、人によるよね」

「・・・なんなんだおまえは・・・」
< 6 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop