大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
一人一人に挨拶していたみたいだけど、朝礼で改めて穂高が挨拶をする。
「おはようございます。今日からこちらで勤務します、上廻と言います。今まではサンディエゴのメルナク社で『機能性食品研究部門』の研究員をしていました。この会社のことはまだ慣れないことが多く、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「え、メルナクってあの?」
小さくざわつく声が聞こえる。
メルナク社は、バイオヘルステック企業の最先端をいく企業。知らないものはいないレベルの企業だ。
私が初めて出会った時、彼はもうそこの研究員をしていた。
女性社員のきらきらした視線が穂高へ向かう。
(初日から好感度が跳ね上がってるじゃないか……)
きっと彼はここですぐに恋人を見つけるんだろう。
それは私には全然関係のないことだ。
私は女性に囲まれている彼からなんとか視線をそらし、仕事に目を向けた。
自分の仕事をきちんとしておけばいい。と思ったのに――。
「そうそう、今開発中の春の新商品のことだが、リーダーは桐沢だったよな」
名前を呼ばれてビクッと身体が跳ねる。
しかし、確かにそうなので私は一つ頷いた。
「は、はい……」
「少し開発が予定より遅れているようだな。これ、少し話を聞いてもいいか? 時間はいつ行ける? 俺はいつでも。今からはどうだ?」
「私は十分ほどしたら大丈夫です」
「じゃあ、十分後にA会議室で」
きっぱりと言って、穂高は踵を返した。篠田さんがやってきて私の背を叩く。
「いいなぁ、ふたりきり」
「いや、仕事ですよ? 詰められるに決まってますよ……。遅れてるのは事実だし」
「まぁ、ねぇ。どうしてもうまくいかないって感じ?」
「時間も限られてますしなかなか。すみません、先に、機械の準備だけしてきます」
そう言って、私は開発室内へ向かった。せめて機械だけでも立ち上げておきたかった。
今は、家事の都合で長時間残業ができない。だからこそ、細かな隙間時間をどう使うかばかり考えてしまう。
効率化と言えば聞こえはいいが、肝心な部分の根本解決には程遠い。その中途半端さがもどかしい。
——本当はもっと研究したい。
考えて、試して、失敗して、また組み直して。少しでも理想に近づく瞬間がたまらなく好きで、気づけば時間なんて忘れて没頭していた。
不思議と、それだけ頑張ってもまったく苦にはならなかったのに。
今はそれができない。その事実がじわじわと苦しい。
それでもここで続けてこられたのは、瑞穂さんが「好きなら続けて。あなたの居場所はここにもあるのよ」と背中を押してくれたからだ。
だけど……穂高が上司になったこれから、自分はどうなるんだろう。
不安ばかりが、胸の内に広がっていた。