大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
気分を入れ替えて開発室に戻ると、篠田さんがニヤニヤしながら近寄ってきた。
「おっ、戻ってきた。どうだったの、部長との会議? 怖かった?」
「いえ、全然、怖くないですよ」
「へぇ〜? なんか顔が明るいわねぇ」
「ちょっといい案をいただいただけですっ」
必死に否定して、私はすぐに試作品づくりに集中した。
しばらくすると――。
「桐沢、サンプル持ってきた」
穂高が段ボール箱を抱えて入ってきた。
「ありがとうございます。すぐに使ってみます」
ベルガモットのフレーバーを取り出し試作を始めると、驚くほど滑らかに味が整っていった。
「……え、これ……すごい……!」
「ほんとだ!」
本当に数時間で、納得のいく仕上がりになったのだ。
チームみんなの顔が明るくなる。
「どうだ?」
振り返ると穂高がこちらを見ていた。
「これ、すっごくいいです! 部長のおかげです!」
「それはよかった。俺も飲んでいい?」
「もちろんです! どうぞ!」
穂高は試作品を一口含み、すっと目を細める。
「……あぁ、これはいいな。酸味の角がしっかり消えてる」
「ですよね!」
周囲のメンバーも嬉しそうにざわついている。
「じゃあ、この方向性で営業部にも話を通しておく。特許の件も早めに動こう。準備できるところから進めてくれ」
「はい!」
穂高が出ていくと、篠田さんがすかさず私の肩を叩いてきた。
「おーおー、いい顔してるねぇ。そんな嬉しそうなの久しぶりに見たわ」
「ずっと悩んでて、おなじとこグルグルしてた感じでしたが、やっと形になったので」
「なんかさ、新しい部長とも相性いいんじゃない?」
「えっ……いや……えっと……たまたまです!」
「ふーん?」
篠田さんは興味津々だが、あくまで仕事の相性が良さそうという意味でしか疑っていないようだ。
過去のことなんて、もちろん知らない。
「でも、その顔。最初の商品できた時みたいだよ」
「そう、ですか?」
「うん」
これまで何度か開発に携わったが、結婚してからはとりあえず必要な作業をこなすだけのことが増えてきていた。
でも、そうだ。
一年目は自分の担当商品が形になった時、当時、指導してくださった瑞穂社長と飛び跳ねて喜びあったんだ……。すごく嬉しかった。
「これ、瑞穂社長にも飲んでいただきたいな」
「今は社長になって忙しそうだけどねぇ。全国飛び回ってるって聞いたよ」
「でも同じ会社ですし、また会えますよね」
私は試作品の入ったビーカーを見つめ、ふっと笑った。
この味なら、胸を張って尊敬する彼女にも渡せる気がした。