大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
「おはようございます」
ギリギリの出社時間になってしまい、開発室にはすでにみんな向かったあとだった。
人の気配が薄いロッカー前で、私は息を吐く。
(……よし、誰にも会わずにすんだ)
そう思った瞬間。
「おはよう」
すぐ背後から落ち着いた低い声がして、身体がビクリと跳ねた。
見なくてもわかる。穂高だ。
「……おはようございます」
顔を見せたくなくて、顔を背けたままロッカーへ歩こうとした。
「昨日の件だけどな……」
「後でいいですか。先にロッカーに――」
言い終える前に、手首をそっと掴まれた。
「えっ……」
驚いて振り返ると、穂高の視線とぶつかる。
その目は一瞬見開かれたように見えた。
(泣いてたの、絶対バレてる……!)
そう思って心臓が跳ねた瞬間、彼は静かに言った。
「顔が青い」
「え……」
驚く私の言葉を遮るように、穂高は手首を放さないまま歩き出した。
「医務室行くぞ」
「い、いえ大丈夫で――」
「いいから。上司に逆らう気か。許さないぞ」
周りの人が聞いたらぎょっとしそうな言葉選び。
だけど、その一言で大丈夫と言い張ることはできなくなった。
人の少ない朝の廊下を、引かれるようにして歩く。
穂高の手は温かいのに、私の指先は冷たく震えていた。
(どうしよう。全部、見抜かれてたら……)
だけど彼は黙ったままだ。