辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
侯の顔が怒りで歪む。
(離縁されれば、自分が何もできないことが露呈し、領地が傾く)
その恐怖が怒りに変わった。

「貴様ぁ……!
 お前みたいな高慢で行き遅れの女を嫁にもらってやっただけ感謝しろ!!」

そして——
乾いた音が響いた。

バシッ。

ファティマの頬が大きく弾かれ、
視界が揺れる。

痛みより先に、
涙が溢れた。
「……最低……」

侍女たちが止めようとしたが、
ファティマは首を振って走り出す。

門を抜け、石畳を踏みしめ、
ただ涙を流しながら。

夜気が頬の火照りを冷やす。

(——デクラン。あなたの言う通りだった。
 でも……私、必ずここを出る。
 絶対に……終わらせる。)

頬に残る痛みと、
胸の奥に残る決意。
それだけを抱えて、
ファティマは闇の中へ消えていった。

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