辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
朝。
ファティマが目を開けるより先に、
扉の外には近衛が立っている。
静謐で質素な部屋。
清潔に整えられているだけで、
牢獄と変わらない。
身支度を整えるあいだも、
侍女の後ろに見張りの視線が刺さる。
鏡越しにその存在を確認するたび、
胸の奥に重石が落ちるようだった。
「……今日の公務は?」
ファティマの問いに、
侍女ソニアは苦い顔で答える。
ソニアは元々ファティマ付きの侍女で
ファティマも全幅の信頼を置いている。
クレオールの指示に従う条件として、
ソニアを側におくことを要求したのだった。
「午前は孤児院の視察、午後は凱旋将軍の祝賀式典でございます。皇帝陛下の御意向とのことです。」
御意向。
その言葉を、もう何度耳にしただろうか。
クレオールの好感度を上げるための公務。
ファティマは国民の前に姿を見せて微笑む。
それだけで弟の求心力が上がるのだ。
ファティマは国民に愛される皇女だから。
着替えの後、部屋を出る。
廊下には近衛騎士が二名、
カツンと踵を鳴らして前に立つ。
「皇女殿下、お供いたします。」
その声は丁寧だが、
拒絶の余地は一切ない。
――どこへ向かおうと、この監視はついてくる。
皇宮の庭を歩くと、
季節の花が咲き誇り、青空も眩しい。
けれどそこは、
自由に深呼吸できる場所ではなかった。
侍女がこっそり小声で囁いた。
「外は爽やかな天気でございますのに……殿下が自由に散策できればいいのですが」
ファティマは微笑み返すしかできない。
自由など、もう幻想になってしまったのだ。
ファティマが目を開けるより先に、
扉の外には近衛が立っている。
静謐で質素な部屋。
清潔に整えられているだけで、
牢獄と変わらない。
身支度を整えるあいだも、
侍女の後ろに見張りの視線が刺さる。
鏡越しにその存在を確認するたび、
胸の奥に重石が落ちるようだった。
「……今日の公務は?」
ファティマの問いに、
侍女ソニアは苦い顔で答える。
ソニアは元々ファティマ付きの侍女で
ファティマも全幅の信頼を置いている。
クレオールの指示に従う条件として、
ソニアを側におくことを要求したのだった。
「午前は孤児院の視察、午後は凱旋将軍の祝賀式典でございます。皇帝陛下の御意向とのことです。」
御意向。
その言葉を、もう何度耳にしただろうか。
クレオールの好感度を上げるための公務。
ファティマは国民の前に姿を見せて微笑む。
それだけで弟の求心力が上がるのだ。
ファティマは国民に愛される皇女だから。
着替えの後、部屋を出る。
廊下には近衛騎士が二名、
カツンと踵を鳴らして前に立つ。
「皇女殿下、お供いたします。」
その声は丁寧だが、
拒絶の余地は一切ない。
――どこへ向かおうと、この監視はついてくる。
皇宮の庭を歩くと、
季節の花が咲き誇り、青空も眩しい。
けれどそこは、
自由に深呼吸できる場所ではなかった。
侍女がこっそり小声で囁いた。
「外は爽やかな天気でございますのに……殿下が自由に散策できればいいのですが」
ファティマは微笑み返すしかできない。
自由など、もう幻想になってしまったのだ。