辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
国民たちはファティマの復帰を心から喜んでくれた。

孤児院では子どもたちが駆け寄ってくる。
その笑顔に救われる瞬間もある。

「ファティマ様だ!きれい!」
「また来てくれる?」
ファティマは膝をつき、優しく手を取る。
けれど背後には、
冷たい目をした近衛が控えている。
彼らの視線が
一瞬温かくなった心を凍りつかせてしまう。

――今、泣きたくなっても泣けない。

午後の式典では、
華やかな装飾の前に立ち、祝辞を読み上げた。
人々の喝采とともに、
ファティマの背後で満足げに笑うクレオール。

(私は飾り……)

喉の奥が焼けるように痛む。
でも表情には出せない。
皇帝の評判を落としたとなれば、
何をされるかわからないから。
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