辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
そこへノックもそこそこに、
オルランドが入室する。
後ろにはデクランたちもいる。

その顔は穏やかだが、
眼差しは鋭い。

「……ファティマ殿。来て早々申し訳ないが、あなたに伝えねばならぬ。」

ファティマは立ち上がり、
デクランも後方で身を正した。

「クレオールの手が、このアルドレインにも迫っている。
 我が国も安全とは言い難い。」

フィロメナが息をのむ。

オルランドは続けた。
「ゆえに——
 ファティマ殿は ヴァリニア王国へ避難するべきだ。
 あの国ならドラゴニアも手出しはできん。
 エドリック王には既に話を通した。王家の馬車も用意しよう。」

ファティマは驚きと戸惑い、
そして少しの安堵を胸に抱いた。
「……私のことを、そんな真剣に考えてくださるとは……。」

「当然だ。
 貴女はフィロメナにとって大切な姉君であり、
 我が国にとっても素晴らしい友人なのだ。」

フィロメナも涙をぬぐいながら力強く頷いた。
「姉上のためにできることは何だってするわ。」

デクランは胸の奥で自問自答する。
この姉妹を守るためにも、
そしてファティマの未来のためにも、
自分がどれだけ力になれるだろうか、と。

オルランドは改めて告げた。
「準備が整い次第、君たちはヴァリニアへ向かう。
 新たな旅だ。しばし休み……力を蓄えよ。」

ファティマは静かに息を吸い込んだ。
——私は、生きて、自分の未来を選ぶ旅に出る。

そう力強く決意した。
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