百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「ところで君、誰?」
「あ、うちに新しく入った派遣の学生さんです! Webデザイナーとして百十一さんの部下として働いてくれてるんです。」
「ふうん。嫌なコンビだね。」
真木先輩は、星志さんから受け取ったハンドタオルで顔を拭いた後、お会計のためにカフェ店内へと入っていった。
「行こっ、か。」
星志さんが手を引いてくれる。私が怖がっていると思ったのかもしれない。
「また、助けられちゃいましたね。ありがとうございます。」
「なんか、百十一、さんが、和果ちゃんのこと、ずっと、気にしてるの、わかる気が、する……」
「わ、私、そんなに気にされてますか?」
とはいえ、私はすでに、百十一さんの契約外労働の押しつけの件ですでに頭がいっぱいだった。
出社し、朝礼を終えれば、早速会議室に百十一さんを呼びつけた。
「おいおい。朝からなんなんだよ? 俺は今日超忙しいってのに。」
「百十一さん! 星志さんにコーディングまでさせてるって本当ですか?! 契約違反になりますよ!」
「ちょっとぐらいいいじゃねえか。バイブコーディングなら出来るって自慢してきた星志が悪いっての。」
「そもそもバイブコーディングなんて糸藤課長にはいい顔されないでしょう。」
「そんなことねえって。AIにはAIにしか出来ないコーディングと、人間には人間にしか出来ないコーディングがあるって糸藤ちゃん言ってたべ?」
背もたれの高いキャスター付チェアに座り、くるくると回る百十一さんは、始終嬉しそうに私を見てくる。
「それよりさ、今度いつうち来る? あ、俺がそっち行ってもいいけどいつやる?」
「もう! 始業時間過ぎてるんです。プライベートなことは後にしてください!」
「これくらいいいじゃん。せっかく2人きりなんだし。」
あたかも、すでに付き合っているような空気で平然と話を詰めてくる。はあ。百十一さんて悩みとかあるの?
「まあいいや。俺忙しいから戻るわ。真木の件といい色々思うとこあるだろうし。越名のタイミングに合わせるよ。」
妥協するようにため息を吐いた百十一さんが、面倒くさそうに席を立ち、会議室を出ていこうとする。
私は迷いつつも、勢い任せに百十一さんの手を引っ張った。
「あの、待って下さい!」
「なに?」
「その、私。ちゃんと、真木先輩と別れたので。」
「…………」
「すみません。せっかく百十一さんは『好き』だと言ってくれたのに、お待たせてしている形になってしまって。」
「あそう。早いね。別れたんだ。」
「はい。」
真木先輩の真実は、全部百十一さんが暴いてくれたようなものなのに。私、『まだ別れてないから』とか言って、真面目にとらえすぎていた気がする。
百十一さんてなんだかんだ私に合わせてくれるし、実はけっこう甘いんだよね。
「だから、その。わっ、私も、百十一さんのことが大好きなので、ぜひとも、お付き合いしていただけますか。」
手を引いたまま告白してしまった。
会議室全体に自分の鼓動が響いているかのような緊張感が伴う。自分から告白することが、こんなにも苦しくて勇気がいることだなんて知らなかった。
今度は私が手を引かれて、壁にもたれかかる百十一さんに抱き寄せられた。
就業中にいけないことをしているのに、胸が締め付けられるほどの安心感を覚えてしまった。
「こんな俺ですが、よろしくおねがいします。」
今、どんな顔でそれを伝えてくれているのだろう。いつになくまともに返す百十一さんは、顔を見られたくないのか、私を力強く抱きしめるばかりだった。
肩にかかる息が熱い。
「こちらこそ、です。」
「これからたくさん愛を伝えていくから。」
「こちらこそですよ。」
百十一さんと過ごす時間が、いつしか家族と過ごしてきた時間よりも長く過ごせますように。
そう願う私は、真面目というより重い女でしょうか?
「あ、うちに新しく入った派遣の学生さんです! Webデザイナーとして百十一さんの部下として働いてくれてるんです。」
「ふうん。嫌なコンビだね。」
真木先輩は、星志さんから受け取ったハンドタオルで顔を拭いた後、お会計のためにカフェ店内へと入っていった。
「行こっ、か。」
星志さんが手を引いてくれる。私が怖がっていると思ったのかもしれない。
「また、助けられちゃいましたね。ありがとうございます。」
「なんか、百十一、さんが、和果ちゃんのこと、ずっと、気にしてるの、わかる気が、する……」
「わ、私、そんなに気にされてますか?」
とはいえ、私はすでに、百十一さんの契約外労働の押しつけの件ですでに頭がいっぱいだった。
出社し、朝礼を終えれば、早速会議室に百十一さんを呼びつけた。
「おいおい。朝からなんなんだよ? 俺は今日超忙しいってのに。」
「百十一さん! 星志さんにコーディングまでさせてるって本当ですか?! 契約違反になりますよ!」
「ちょっとぐらいいいじゃねえか。バイブコーディングなら出来るって自慢してきた星志が悪いっての。」
「そもそもバイブコーディングなんて糸藤課長にはいい顔されないでしょう。」
「そんなことねえって。AIにはAIにしか出来ないコーディングと、人間には人間にしか出来ないコーディングがあるって糸藤ちゃん言ってたべ?」
背もたれの高いキャスター付チェアに座り、くるくると回る百十一さんは、始終嬉しそうに私を見てくる。
「それよりさ、今度いつうち来る? あ、俺がそっち行ってもいいけどいつやる?」
「もう! 始業時間過ぎてるんです。プライベートなことは後にしてください!」
「これくらいいいじゃん。せっかく2人きりなんだし。」
あたかも、すでに付き合っているような空気で平然と話を詰めてくる。はあ。百十一さんて悩みとかあるの?
「まあいいや。俺忙しいから戻るわ。真木の件といい色々思うとこあるだろうし。越名のタイミングに合わせるよ。」
妥協するようにため息を吐いた百十一さんが、面倒くさそうに席を立ち、会議室を出ていこうとする。
私は迷いつつも、勢い任せに百十一さんの手を引っ張った。
「あの、待って下さい!」
「なに?」
「その、私。ちゃんと、真木先輩と別れたので。」
「…………」
「すみません。せっかく百十一さんは『好き』だと言ってくれたのに、お待たせてしている形になってしまって。」
「あそう。早いね。別れたんだ。」
「はい。」
真木先輩の真実は、全部百十一さんが暴いてくれたようなものなのに。私、『まだ別れてないから』とか言って、真面目にとらえすぎていた気がする。
百十一さんてなんだかんだ私に合わせてくれるし、実はけっこう甘いんだよね。
「だから、その。わっ、私も、百十一さんのことが大好きなので、ぜひとも、お付き合いしていただけますか。」
手を引いたまま告白してしまった。
会議室全体に自分の鼓動が響いているかのような緊張感が伴う。自分から告白することが、こんなにも苦しくて勇気がいることだなんて知らなかった。
今度は私が手を引かれて、壁にもたれかかる百十一さんに抱き寄せられた。
就業中にいけないことをしているのに、胸が締め付けられるほどの安心感を覚えてしまった。
「こんな俺ですが、よろしくおねがいします。」
今、どんな顔でそれを伝えてくれているのだろう。いつになくまともに返す百十一さんは、顔を見られたくないのか、私を力強く抱きしめるばかりだった。
肩にかかる息が熱い。
「こちらこそ、です。」
「これからたくさん愛を伝えていくから。」
「こちらこそですよ。」
百十一さんと過ごす時間が、いつしか家族と過ごしてきた時間よりも長く過ごせますように。
そう願う私は、真面目というより重い女でしょうか?