百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「……例えば、役職がなかったとしたら、決定権は誰にあるのでしょうか?」
「チームの中で役割を決めればいんじゃないっすかね。」
「チーム?」
「企画を実行する人たちのこと。」
「それなら企画と言ってください。」
「ただ長く会社にいる人間だけが決定する権利を持ってるのも変なじゃない? 別に中堅社員が決めたっていいと思うし、」
「そ、それでは、長く会社にいる人たちを尊重することに繋がりませんよね。」
「でも役職就きたくないのに長くいるってだけで役職就かなきゃいけないってのはおかしくない?」
「う……」
それは、そうかもしれない……。
いの一番に賛同したのは糸藤課長だった。
大きくうなずき、「私も課長やりたくなかったけどやらざるを得ない空気だった」と言っている。
「た、確かに、百十一さんの言う事も一理あるかもしれませんね。」
「でしょ?」
「思ってもみなかった発想ですが、そっか。なんだか重要なことのような気がしてきました。」
「やっぱ? 俺っていいこという?」
「は、はい! つまり、役職よりも役割を与えることが大事だって言いたいんですよね? うんうん、す、素晴らしいことだと思います!」
戸惑いながら応えれば、なぜだか周りから拍手が上がった。
百十一さんに対する、称賛の拍手。
なんだか言いくるめられてしまったようで悔しい。百十一さんの言葉は、適当なようで説得力がある気がする。
私がうつむいていれば、他の社員たちから声が上がった。
「越名さんが焦ってるとこ始めてみた! めっちゃかわいい!!」
「ほんと! 最初は百十一の意見を応援してたけど、いつの間にか越名さんを応援する気持ちのが大きくなってたわ!」
「いいねえ越名さん! 面白いじゃん!」
システム部の皆が笑顔で私を見つめている。
まさかの言葉に唖然とする。
百十一さんではなく、私に向けた拍手だったらしい。急に恥ずかしくなり、「恐縮です」と頭を下げた。
あははと大口を開けて笑う糸藤課長が、スマホを取り出し、席を立った。
「今日システム部で飲みに行くんだけど、越名さんも来ない?」
「い、いいんですか? 私、別の部署なのに、」
「いいに決まってんじゃん! とりまライン交換しない? 後から店のURL送るからさ。」
「あ、ありがとうございます!」
どうしよう。嬉しい。嬉しくて自然と口角が溶けてしまう。
難攻不落だと言われている糸藤課長から誘ってもらえるなんて、男性に誘われるよりも嬉しい。
私がいそいそと糸藤課長とライン交換していれば、後ろの百十一さんがじっとこちらを睨んできた。
ひっ……、怖。
なるべく見ないようにしていれば、ボソリと声が聞こえた。
「てめ、俺のカモ鍋蹴ってそっち行くんか。覚えてろよ。」
聞こえないフリをした。