silent frost
私の机の向こう、窓際に佇む、一人の男。

神田京夜。

オフィスという舞台の中心に立ちながら、
その空気を“自分の色”に塗り替えてしまうような男だった。

スーツは糸一本の乱れもなく身体に沿い、
深い藍を溶かしたような髪が額に触れる。
整い過ぎた横顔に浮かんだ微笑みはやわらかいのに、不意に見せる視線は、刃物のように静かで鋭い。



飄々としているくせに、自然と目を奪われてしまう色気──



それは上品さと危うさが同居した、エロティシズムの香りを帯びた“支配の気配”*だった。





初めて間近で見た瞬間、胸の奥で何かがひっそりと震えたのを覚えている。



いや、もそれは子宮だったのかもしれない




己の女の部分が刺激される





正しくそんな男だった。








表向きは優秀な企業の社長。




だが、その背中に流れているものは、
“昼”だけのものではないと気づくまで、さほど時間はかからなかった






この会社には、日の光だけでは照らせない領域が確かに存在する。




それは、境界線が曖昧だからこそ恐ろしい影。





だからだろうか。





秘書として彼の背に仕えるたび、
私の背筋には静かな緊張が走る。






そんな、張りつめた一角で




私の一日は、今日もまた淡く始まった。




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