拝啓、愛しのパイロット様

「それでは、よろしくおねがいします」

 事務所内でフライトを担当する操縦士と運行管理官が一堂に会するブリーフィングが滞りなく終わると、離陸予定時間一時間前に機体のもとへ向かう。

 税関を通過し搭乗ゲートを目指し、空港内を歩いているその最中。

「あ、あのっ!宇佐美さんですか?」

 女性二人組から突然話しかけられた由桔也は、ゲートへ急ぐ足を止めた。

「はい。そうです」

 淀みなく答えると、彼女たちの表情がぱあっと明るくなっていく。

「SNSを見てファンになったんです!握手してください!」

 彼女たちは隣にいる長田には目もくれず、由桔也だけを一心に見つめていた。

「いいですよ」

 長田を待たせている後ろめたさもあるが、だからといって無碍に扱うこともできない。
 由桔也は求められた通りに握手を交わした。

「お仕事がんばってください!」
「ありがとうございます」

 ひと通りの対応が終わるとようやく解放され、安堵のため息をもらす。

「すっごいねえ。あの子たち、宇佐美くんのファン?」

 たっぷり五分は待たされたというのに長田は憤慨するどころか、さも愉快そうに由桔也をからかい始める。

 BCJ内では、いちパイロットの由桔也がSNSでバズったことが広く知られており、長田も例外ではないらしい。

「時間を取らせて申し訳ありませんでした。急ぎましょう」

 由桔也は卒なく謝ると、再び搭乗ゲートへと歩みを進めた。
 例のSNSが投稿されてからかなりの日数が経っていたが、ああいった手合いはいまだにゼロにはならない。
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