拝啓、愛しのパイロット様
「実登里先生の御手本が見たくて、つい早く来ちゃいました」
「あらあら。ご期待に沿えるかしら」
小町から期待の眼差しを受けた実登里は、うふっと口もとに手を添え上品に笑った。
彼女の名前は宇佐美実登里。小町が受講しているこの書道スクールである。
「今日の課題はなんですか?」
そう尋ねると、実登里は手もとにあった半紙を掲げて見せてくれた。
「『夏雲』ですか?」
「ええ。そろそろ暑くなる季節だし、どうかしら?」
「とっても素敵です」
五月も終わりに差し掛かり、日中も上着がいらない日が増えてきた。
これから暑くなる季節に向けて、ぴったりの文字だと思う。
「小町さんに褒めてもらえるなんて、うれしいわあ」
心底うれしそうな実登里の微笑みに、ハートを射抜かれたような夢見心地の気分になる。
小町は書道家としても活躍する実登里のファンなのだ。
といっても、このスクールに通い始めてからなので、ファン歴はまだ浅い。