拝啓、愛しのパイロット様
小町がこの書道スクールと出会ったのは三ヵ月前。
仕事帰りに靴を買おうとして、誤ってひとつ上の階の十階に降り立ってしまったのだ。
下りのエスカレーターに乗ろうとしたそのとき、『求む!受講者!』と書かれた半紙が壁に貼ってあり、目が釘付けになった。
(なんて素敵な字だろう)
トメ、ハネ、ハライ。文字のバランス。すべてが完璧に小町好み。
筆運びにも圧倒的な勢いを感じ、受講者を強く求める心意気が伝わってくるようだった。
小町がその足で書道スクールに申し込んだのは必然と言える。
『弘法筆を選ばず』とは言うけれど、小町の場合は逆だ。
いくら素晴らしい万年筆を持っていたって、使う本人の字がお粗末なら、宝の持ち腐れ。
あんな素敵な字を書く人から教えてもらえるなるなら、受講料なんて安いものだ。
「皆さん、こんばんは。今日もひと文字ひと文字丁寧に書きましょうね」
七時になり、他の受講者が揃うと、早速スクールが始まる。
ホワイトボードに掲示されたお手本を眺めながら注意点を聞いたあと、各々が手を動かしていく。
スクールはボールペンを使うペン字と、筆を使う毛筆を一週間ごと交互に行う。
今日は小町が苦手な毛筆だ。
スクールに通い出して日が浅く、まだ筆を上手く使いこなせていないのだ。
「小町さん、ここをしっかり止めると、もっとよくなるわ」
「はい。ありがとうございます」
半紙に向かい四苦八苦していると、受講者の座るテーブルを回っていた実登里から、アドバイスをもらう。
(うん。本当にさっきよりもよくなった)
実登里に教えられた通り筆を運ぶと、全体のバランスがとれて、最初に書いたものよりもずっと見映えがよくなった。
そうして、ひたすら書に向き合うこと一時間半。
スクールの時間はあっという間に終わってしまう。