拝啓、愛しのパイロット様

「小町さん、ちょっといいかしら?」

 スクールが終わり、受講生が各々書道セットを片づけている最中、実登里にそっと話しかけられる。

「はい、なんでしょうか?」

 小町は片付けの手を一旦止めると、実登里に向き直った。

「小町さんって、文房具メーカーにお勤めよね」
「はい」

 スクールに通い始めた初日、文房具メーカーで働いていると自己紹介をしたことを実登里は覚えていたらしい。

「相談があるんだけど、いいかしら?」
「相談ですか?」
「実はね。今度、三年ぶりに個展を開催することになったの」

 個展と聞いて、興奮のあまり大きく目を見開く。

「実登里先生のですか!?絶対行きます!」
「うふふ。ありがとう。それで相談っていうのは、個展でお配りする記念品についてなの。書道家として三十周年を迎えたことだし、来てくださった方になにか記念になるものをお渡ししたいのだけれど……。どういったものをどれくらい注文すればいいのか相談できないかと思って」

 実登里の話を聞きながら、うんうんと小町は頷いた。
 パーティーや、卒業式などでは、記念品として文房具が贈られるのが定番だ。
 近年では、企業の展示会でノベルティ用に大量発注されることも多い。
 書道家という実登里の職業からして、贈るなら文房具と考えるのも当然だ。

「そういうことなら任せてください。きっとお力になれると思います」
「ありがとう。助かるわあ」

 張り切って返事をすると、実登里はホッとしたように息を吐いた。

「いえいえ。実登里先生のお手伝いができて私も光栄です」

 尊敬する実登里に頼られるなんて、控え目に言ってもうれしい。
 ふたりはそれぞれのスケジュールを確認し、翌週の土曜日、午後三時に同じファッションビル内にあるカフェで落ち合うことになった。

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