拝啓、愛しのパイロット様
「どうかした?」
仮申し込み書を凝視している小町を不審に思ったのか、由桔也がこちらの様子を窺ってくる。
「あ、いえ!字が綺麗で驚いて……」
「これでも書道家の息子だからな。字の書き方は幼いときから叩き込まれている」
「そうでしょうけど……」
由桔也の字は、やはり他の人とは違う。
実登里と似ている点もあるが、彼の方が線が太くて力強く、すっと掠れた曲線には色気すら感じられる。
書道家の息子だから当然だと言っているが、一朝一夕で身についたものではない。
「由桔也さんの字は、とても長い時間をかけて身につけたのがわかります。ずっと努力されてきたんだなあって!」
語彙力が足りないせいで表現できないのが悔やまれる。
由桔也は、熱弁をふるう小町を面食らったように見つめていたが、次の瞬間、弾けるような笑い声が辺りに響いた。
「あははっ!そんなに俺の字が気に入った?」
「あ、いや!そのっ!」
我に返り狼狽える小町をからかう由桔也は少年のような無邪気さでクックと笑いをかみ殺した。
(やってしまった……!)
他人の文字に見惚れる変人だと思われてしまった。悔やんでも、時すでに遅し。
「初めてだな。パイロットっていう職業や見た目より先に字の方を褒められたのは」
必要事項を書き終えた由桔也は小町をからかうように、にんまりと満足げな笑みを浮かべながら、ボールペンと仮申し込み書を返した。
(恥ずかしい)
初対面だというのに、とんでもない大恥をかいてしまった。
小町を書類をバッグにしまいつつ、自分の軽率な行動を反省した。