拝啓、愛しのパイロット様
「ど、どうして……?」
「さあ?どうしてだろうな?」
由桔也は思わせぶりに、わざと回答を濁した。
小町に自分で考えさせて、反応を楽しんでいるのだ。
なんて意地悪なんだろう。
数秒の沈黙の末に、由桔也が再び口を開きかけたそのとき。
目を泳がせていた小町はエントランスに人だかりができているのを視界の端にとらえた。
窓の外に目が釘づけになった小町同様、由桔也もエントランスに視線を向ける。
「なにかあったのか?」
「行ってみましょう」
ふたりは車から降りると、集まっているうちのひとりに話しかけた。
「どうしたんですか?」
小町が声をかけると、さっと人が避けていき視界が開ける。
「なにこれ……」
小町はヒッと小さな悲鳴をあげた。
オートロックの扉の前、エントランスには、毒々しいほどに真っ赤な薔薇の花びらがハート形にぎっちりと敷き詰められていた。
その中央には小町の写真と【Dear Komachi】と書かれた木製のプレートが恭しく鎮座している。
「誰がこんなことを……」
顔から血の気が引いていくのが、自分でもわかった。
傍目から見れば、恋人からの微笑ましいプレゼントに思えるかもしれないが、小町に現在恋人はいない。
恋人どころか、男性とふたりきりで出かけたのも久しぶりという有様だ。
まったく心当たりのないサプライズには、恐ろしさしか感じない。
「一度車に戻ろう」
由桔也は怖がって身を固くする小町の様子を見て、車に戻るよう促した。
「俺が戻ってくるまで、絶対にドアを開けるなよ」
「はい」
小町が助手席に座るなり、由桔也は車の外側から鍵をかけて、再びエントランスへ走っていった。
(なんであんなものが……)
小町は恐怖に震える己の身体をきつく抱きしめた。