拝啓、愛しのパイロット様
「ひ、ひとりで住むには広すぎるって思ったんです!」
誤解だったとわかり恥ずかしさのあまり、つい叫び出す。
そもそも、由桔也が独り身なのが、どう考えてもおかしいのだ。
著名な書道家を母に持ち、自身もパイロットという職業に就いている上に、この容姿だ。
女性なら、誰でも彼の恋人になりたいと熱望するに違いない。
この部屋がどう見ても、ひとりで住むには広すぎるファミリー向けの間取りなのも悪かった。
「ここは、もともと姉夫婦の住まいだったんだ。転勤の間、空き家にするのももったいないから、代わりに住んでいるだけ。空港にも近いし」
姉がいるという話は以前聞いていたので、彼の説明に納得する。
「だから気兼ねなく泊まってもらってかまわない。セキュリティも万全だから、安心していい」
「なにからなにまでありがとうございます」
小町は改めてお礼を言った。
やむを得ない事情があるとはいえ、いきなり知り合いを家に泊めるなんて、お人好しにも程がある。
「お礼なんていいよ。大変なのは仁科さんだし」
由桔也はなんでもないことのように言ってくれるが、彼の厚意に甘え続けている現状に抵抗を感じるのもたしかだ。
「あのっ!一泊分の費用をお支払いします!」
「別にいいよ。大した寝床も用意できてないし」
「それじゃ、私の気が済みません!」
「じゃあさ、小町って呼んでいい?それでチャラにしよう」
差し出された対価と釣り合っていないのは明らかだったが、他のものにしようと提案したたころで由桔也は首を縦に振らないだろう。
「わかりました」
破格の条件に小町は頷くほかない。
「よかった。じゃあ、これからは小町って呼ぶな」
由桔也は本当に嬉しそうに、口もとを綻ばせた。