拝啓、愛しのパイロット様
「だから由桔也さんの気持ちに応えられません。ごめんなさい。例の件が落ち着いたらすぐにあのマンションから出て行きます」
幸いなことに没頭できる趣味も、情熱を抱ける仕事もある。
ひとりで生きていくには充分すぎる環境を、あえて変えたいとも思えない。
すべて話し終えた小町は膝の上にのせた拳をぎゅっと握り締めた。
小町が口を閉ざしたことで話す者がいなくなり、空調の音だけがやたらと虚しく響く。
目の前の氷が徐々に溶け始めているのをじっと眺めていると、ようやく由桔也が沈黙を破る。
「俺は君の両親とも、かつての恋人とも違う人間だ」
由桔也は小町の後ろ向きな発言を一蹴した。
当たり前の事実を突きつけられただけなのに、ハッとさせられる。
「未来のことは誰にもわからないよ」
そう語る由桔也の瞳からは輝きが失われておらず、小町に向ける感情もまた変わったところが見受けられなかった。
「俺は俺で勝手に努力するだけだ。小町に信じてもらうために」
由桔也は自信たっぷりに微笑んでいるが、意味がわからない。
(どうして?)
彼の気持ちに誠実でありたいと思うけれど、長年の感情を容易く捨てることもできず、余計にどうしたらいいのかわからなくなる。
小町は由桔也の態度に戸惑いながら、半分ほど溶けかけたかき氷を再び口に運んだのだった。