おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
抱えた後悔と猫のヒデさん

「はぁあ……ダメだ」

自宅である築三十年の木造アパートの一室で、私こと一ノ瀬 桜(いちのせ さくら)は深いため息を吐いた。

三百均で購入した、黒猫のイラストがついた壁掛け時計は深夜二時を過ぎている。数種類あった中から猫のデザインを選んだの犬より猫派なことと、小さい頃見たアニメの中に出てくるしゃべる黒猫のキャラクターが大好きだったからだ。

「もうこんな時間だし、あきらめようか……」

通っている都内の美大での講義を六限まで受けてから、コンビニのアルバイトを終えて帰宅しシャワーを浴びた時点で二十二時を過ぎていた。

空腹を満たすために、買いだめしておいたカップラーメンをすすってからすぐに鉛筆を片手にデッサンを書き始めたが、納得のいく下書きは今夜もできそうもない。

流し台に持っていかずに放置したままの食べ終わったカップラーメンの汁が油分で澱んでいて、なんだか心まで濁りそうになる。

入学したときはただ描くことが好きでたまらなくて無我夢中でキャンバスに向かっていたのに、いまは描くことに後ろ向きで苦痛に感じるなんて思っても見なかった。

理由はわかっている。《《あの日》》以来私の心の中には深い悲しみと共に一生消えない後悔が刻まれたからだ。


「……もう描けないのかな」
< 2 / 31 >

この作品をシェア

pagetop