おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
「俺は……桜と出会わなければなんて思ったことない。これからも思わない。だって桜がいたから俺いっぱい笑えた。なんてことない平凡で真っ白なキャンバスみたいな毎日がさ、桜と出会ってからいろんな色がついたんだ」

「静馬、くん……」

「俺はまた次の人生も桜に会いたいって思ってる。また恋して一緒にいたいんだ。そんな風に思える人に出会えたって奇跡だろ」

涙で視界が滲んで、彼の顔がうまく見えない。

でも彼に抱きしめられたぬくもりと言葉は、私の中の後悔を少しずつ溶かして小さくしてくれる。

「だからさ。いつか俺たちが巡り合えるその時まで……笑ってバイバイしよう?」

「静馬くん……」

「いい、約束。桜には好きな絵を描きながら、いつも笑っててほしい。俺、桜の笑った顔が一番好きだったからさ」

静馬くんが綺麗な二重瞼を優しく細めながら、私の髪をすくようになでる。

「……うん、わかった……なるべく笑うね。けど……ときどきは泣いてもいい?」

見上げれば彼がふっと笑う。

「そういうと思った。じゃあさ、泣きたくなったらこれ見て」

「え?」

彼は肩にかけていた鞄からスケッチブックを取り出した。

「これ……」

「うん。記念日に渡そうと思ってたんだ。見てみて」

そっとページをめくればそこには私をモデルにしたデッサン画が描かれている。次のページもその次のページも私だ。そしてどのページの私も笑顔だ。

「全部……私を描いてくれたの?」

「ほら、笑うと可愛いだろ?」

さすがに照れくさかったのか鼻をすすりながら、目を泳がせた彼を見て私はクスっと笑った。

「ありがとう……すっごく嬉しい。ずっと大事にしてたくさん見るね」

「いや、あんまり見られるとハズいかも。俺の気持ちダダ漏れ」

僅かに頬を染めた彼が柔らかい黒髪を搔きながら眉を下げる。
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