おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
エピローグ

※※

「……ん……」


瞼の裏に光を感じて目を開ければ、私は見慣れた布団の上だった。勢いよく起き上がれば、泣いていたようで頬に涙が伝っている。

「私……やっぱり、夢、だったの?」

涙をさっと拭いて立ち上がると私は部屋を見渡して、すぐにあっと声を上げた。

「これ……」

テーブルの上に私のスケッチブックと一緒にもう一冊スケッチブックが置いてある。

私はスケッチブックを手に取ると、すぐにページをめくっていく。そこには静馬くんが描いてくれた私の笑顔のスケッチで埋め尽くされていた。

「ちがう、夢じゃない……」

私はスケッチブックを胸に抱きしめた。

昨晩、私は関西弁をしゃべるヒデさんに出会い、おもひで猫列車に乗って後悔を思い出にする旅に出かけたのだ。勿論、何も証拠はない。

ヒデさんが私のスケッチブックに描いた絵も文字も残っておらず、ヒデさんとの会話だって妄想だと言われたらそれまでだが、でも夢じゃないと言い切れる。

「ヒデさん……ちゃんと、思い出になったよ」

あんなに苦しんでもがいて、過去の“後悔”に苛まれていた私はもうどこにもいない。

ヒデさんが言ってくれていたように“後悔”は静馬くんと一緒に夜を過ごせたお陰で、かけがえのない思い出に変わっている。


私は朝日に向かって、うんと伸びをするとさっと身支度を整えいつもは摂らない朝食を食べた。

そしてお気に入りのワンピースを着て背筋を伸ばして大学へ向かう。

今日の空は雲一つなく鮮やかな青色だ。
心はその青い空よりももっと澄んでいて、大きく息を吸い込めば、空気がやけに美味しく自然と笑みがこぼれる。


「笑う門には福きたる~、か」

口に出してみたものの、どうもしっくりこないうえに気恥ずかしい。

おまけにどこからかヒデさんの突っ込む声まで聞こえてきそうだ。

「ありがとう」

今日の私の足取りは、まるで猫のように軽やかだ。



2025.11.25 遊野煌


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