夜と最後の夏休み

04.滴る

 ドタバタドタバタ。

 俺がこんな音出したら、お袋と姉貴にぶち切れられるんだろうなあ。そんな音が玄関、階段、それから廊下と響いて俺の部屋のドアが開かれた。開かれたっつーか、ぶち開けられたっつーか。


「たかとし! 聞いて!」


 うるせえ。のそのそと寝そべっていたベッドから起き上がった。


「ねえ、わたし、かわいいよね⁉」

「あー……かわいい。かわいいんじゃねえか」


 そうだよね⁉ なんて、俺の意見なんか、ほとんど聞いていないこいつは田崎ほのか。幼なじみの女の子。女の子、なんてかわいらしいヤツではないけど。けど俺にとっては、一番かわいいと思う。ぜっっっっったいに口には出さない。俺のことをニャンタカと呼ばない数少ない彼女。

 勝手に机の横にある椅子に座って、ぎゃんぎゃんと吠えている。


 で、こいつが騒いでいるのは、あれだ。同級生の佐々木夜についてだ。なんだか知らんが、五年生の終わりくらいから、ほのかは夜がかっこいいだのなんだの騒いでいる。

 そうか? たしかに夜は顔がいい。だってなー、あいつん家、父ちゃんも母ちゃんも綺麗な顔してっからなー。なるほど、これが遺伝……。みたいな。

 あと夜は勉強もできる。ちょっと引くくらいできる。頭の回転がなー……違うんだよなー……。そのくせブツブツいいながらも、わかんないところは教えてくれる。なんなの。完璧なの。


 けど、俺も含めてみんなのそういう夜へのイメージが変わったのが、去年の秋だ。

 夜は夜中に家出して、先生たちにめちゃくちゃ怒られた。家出した理由が


「一人で見つけたいものがあったんだ」


 ということで、一部の連中は


『じゃー、しょうがないなー』


 みたいな、なんかのほほんとした? 雰囲気になって、他は、


『バカじゃん』


 なんて呆れてた。

 俺はしょうがないなーの方。だって男だろ? 一人で探したいモノくらい、あるだろ。

 ほのかはといえば


『かっこいい!』


 と盛り上がった。
 ……そういうことだ。



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