夜と最後の夏休み
「美海は?」
詩音が美海を見た。次は美海の番だと。
「そうだね。えっと、じゃあ。夜はまた、ほのかと図書館行くの?」
「行かない」
戸惑いがちな質問に僕は即答した。
「図書館に行く用事は済ませたし、宿題は一人でした方が効率がいい。それに毎回家に上がりたがるから、断るの面倒」
「ひどい」
ドン引きの顔で詩音がつぶやいた。ひどいかなあ。いやいや一緒にしたってしょうがないだろ。自分の宿題なんだから。
「ていうか、ほのかは家に上がりたがるんだ?」
「うん。けど嫌だから適当に図書館に行ってた」
「嫌なの?」
「嫌だよ」
親だって、あんまり入れたくないのに、同級生の女の子なんかもっと嫌だ。そう言うと詩音がニヤニヤする。
「だから今日も美海の家なんだ?」
「それは違う。僕の家の縁側とベランダに天体望遠鏡が置いてあるから墨で汚されたくない。詩音の真っ黒の手で触られたくないから、美海に頼んで、こっちにしてもらったの」
「あ、そう」
汚くてすみませんね、と詩音がすねた。
「汚れるような用事じゃなきゃ別に僕の部屋だっていいよ。二人はいいんだよ。二人は」
そう言うと詩音と美海は顔を見合わせた。それから笑い出した。
「夜はさあ、もうちょっと詩音や美海と他の人への感覚の違い? それがなんだか考えた方がいいんじゃないの」
「そう?」
詩音が言いたいことがなんだか、よくわからなかった。詩音と美海。田崎さん。あとはニャンタカとか他の同級生。今の話で言えば僕が部屋に入れてもいいと思うのは詩音と美海。他は嫌だ。なんとなくだけど嫌だ。
「なんだろうね? 距離感かな。詩音と美海とは手の届く距離にいてほしいけど他は別にいいかな……」
「他人を諦めないでよ!」
そんなこと言われたって。
「結局、美海の言いたいことってなんだったの?」
考えるのが面倒になって、美海に話を振った。美海は困った顔で
「んー、難しいんだけど夜の答えを聞いてから……だと、ずるいかなあ」
「どういうこと?」
「夜がさ、私と詩音と他の人との違いがわかってからじゃないと、言っても意味がない気がして」
そうなの。困った。正直僕は他人のことなんて考えたくないし、できることなら夜空と星と、あとは美海と詩音、せいぜい親のことくらいで済ませたい。他の人のことなんて、どうでもいい。
「夜。良い機会だよ。詩音は中学になったら、夏に遊びに来られるかわからない。そしたら夜は美海と二人きりだ。そうやって美海にすがって生きていくつもり?」
詩音が真面目な顔で言った。そんな大げさなこと? けど美海は目を合わせてくれないし詩音は真顔のままだ。
「……わかった」
いやいやだけど僕は頷いた。詩音はちゃんと考えてねと念押しして、帰っていった。僕も美海と縁側の片付けをしてから帰宅した。
最後まで、美海は目を合わせてくれなかった。
詩音が美海を見た。次は美海の番だと。
「そうだね。えっと、じゃあ。夜はまた、ほのかと図書館行くの?」
「行かない」
戸惑いがちな質問に僕は即答した。
「図書館に行く用事は済ませたし、宿題は一人でした方が効率がいい。それに毎回家に上がりたがるから、断るの面倒」
「ひどい」
ドン引きの顔で詩音がつぶやいた。ひどいかなあ。いやいや一緒にしたってしょうがないだろ。自分の宿題なんだから。
「ていうか、ほのかは家に上がりたがるんだ?」
「うん。けど嫌だから適当に図書館に行ってた」
「嫌なの?」
「嫌だよ」
親だって、あんまり入れたくないのに、同級生の女の子なんかもっと嫌だ。そう言うと詩音がニヤニヤする。
「だから今日も美海の家なんだ?」
「それは違う。僕の家の縁側とベランダに天体望遠鏡が置いてあるから墨で汚されたくない。詩音の真っ黒の手で触られたくないから、美海に頼んで、こっちにしてもらったの」
「あ、そう」
汚くてすみませんね、と詩音がすねた。
「汚れるような用事じゃなきゃ別に僕の部屋だっていいよ。二人はいいんだよ。二人は」
そう言うと詩音と美海は顔を見合わせた。それから笑い出した。
「夜はさあ、もうちょっと詩音や美海と他の人への感覚の違い? それがなんだか考えた方がいいんじゃないの」
「そう?」
詩音が言いたいことがなんだか、よくわからなかった。詩音と美海。田崎さん。あとはニャンタカとか他の同級生。今の話で言えば僕が部屋に入れてもいいと思うのは詩音と美海。他は嫌だ。なんとなくだけど嫌だ。
「なんだろうね? 距離感かな。詩音と美海とは手の届く距離にいてほしいけど他は別にいいかな……」
「他人を諦めないでよ!」
そんなこと言われたって。
「結局、美海の言いたいことってなんだったの?」
考えるのが面倒になって、美海に話を振った。美海は困った顔で
「んー、難しいんだけど夜の答えを聞いてから……だと、ずるいかなあ」
「どういうこと?」
「夜がさ、私と詩音と他の人との違いがわかってからじゃないと、言っても意味がない気がして」
そうなの。困った。正直僕は他人のことなんて考えたくないし、できることなら夜空と星と、あとは美海と詩音、せいぜい親のことくらいで済ませたい。他の人のことなんて、どうでもいい。
「夜。良い機会だよ。詩音は中学になったら、夏に遊びに来られるかわからない。そしたら夜は美海と二人きりだ。そうやって美海にすがって生きていくつもり?」
詩音が真面目な顔で言った。そんな大げさなこと? けど美海は目を合わせてくれないし詩音は真顔のままだ。
「……わかった」
いやいやだけど僕は頷いた。詩音はちゃんと考えてねと念押しして、帰っていった。僕も美海と縁側の片付けをしてから帰宅した。
最後まで、美海は目を合わせてくれなかった。