夜と最後の夏休み
 去年の夏に怒られるまで、僕は母さんのことを過保護な専業主婦としか思っていなかった。それは別に間違ってはいなかったけど、こうやってちゃんと話すと、それだけじゃないなって気づいた。

 この自由研究をやろうと思ったきっかけは、去年の夏に怒られたことで、その後、自分のことは自分でと、うるさくうるさく言われるようになった。

 最初はうるさいなって思いながら、やったり、やらなかったり。けどふと母さんをみたら、すごい勢いで家事をしていた。洗濯物をたたむのだって、僕よりずっときれいに、そして素早くたたむ。干すのだってそうだ。料理なんか、僕どころか父さんとだって比べものにならない手際で作っている。


(いや、でも、毎日することなんだから、誰だってできるでしょ)


 そう。そのはずだ。あっという間にささっと出来るようになって、うるさく言われないようになろう。そういうつもりの自由研究である。

 母さんの方も思うところがあったのか、実は専業主婦ではなく内職程度に仕事をしているのだと教えてくれた。翻訳をしているらしい。翻訳。具体的にどんなものかは教えてくれなかった。


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