夜と最後の夏休み
 無事に夏休みの計画を立て終わる。おやつを食べて、学校から持って帰ってきた荷物を片付けていると、友達にもらった、よくわからないメモとか出てきてちっとも片付かない。気づいたら寝っ転がって理科の教科書とか読み始めちゃってる。


「夜ー、郵便受け見てきてー」


「はーい」


 うわあ、もうそんな時間だ。飛び起きて家を出る。

 外はゆっくりとオレンジ色に染まっていた。さっきまで読んでいた理科の教科書に、書いてあった、黄昏時が今なんだろうか。
 郵便受けにはチラシが何枚かと、封筒が入っていた。


「僕に? あ、詩音(しおん)からだ!」


 詩音は遠くの都会に住む友達だ。詩音のおばあちゃんがこの町に住んでいて、毎年夏になると詩音はそこに預けられる。夏以外はたまに手紙のやりとりをするくらいだけど、僕には大事な友達だ。


「夜!」


 呼ばれて振り返る。誰かが手を振りながら走ってくるけど、逆光で顔が見えない。それでも、この声を僕は間違えたりしない。


「詩音」


 一年ぶりに会ったその子は、前よりずっと背が伸びていて、けど髪は短いまま。前と変わらない笑顔でやってくる。


「久しぶり!」


「うん、久しぶり」


 詩音は大きな荷物を抱えて、飛びついてきた。


「夜! 会いたかった!」


 背は伸びたはずなのに、前より軽く感じるのはどうしてだろう。前と変わらず細いのに、前より柔らかくなって、いい匂いのする詩音は詩音で間違いない。だから僕は違和感を無視して、でも前より優しく抱きしめ返した。


「僕も、会いたかったよ。詩音」
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