夜と最後の夏休み

02.金魚

 うちの玄関の靴箱の上には金魚がいる。去年の夏の終わりに、私、川瀬美海の両親が夏祭りで取ってきた金魚だ。

 お母さんもお父さんも、最初はそんなに育たないだろうって、小さい水槽で育てていたら、気づいたらむくむく大きくなって、今では立派な大きい水槽に引っ越しをした。

 餌をあげるのと、交換用の水を用意するのは私とお兄ちゃんで交互に。水槽の掃除はお父さん。それ以外はお母さん。餌を買ってきたり、体調管理をしているらしい。

 金魚は一応、私のことを覚えているのか、餌を持って水槽に近づくと寄ってくる。餌の袋を覚えているだけかもしれない。



 夏休み初日の今朝も、そんなことを考えながら餌をまいていると家の電話が鳴った。


「はい、川瀬です」

『あの、根子です。小崎町小で、川瀬……えっと美海、さんと同じクラスの』

「ニャンタカ? 美海です。どしたの」

『なんだ川瀬か。あのさー、おまえ夜と一緒に夏休み宿題やったりする?』


 ニャンタカの質問に自分が嫌な顔になったのがわかった。


「それ、ほのかに聞かれたんでしょ」

『え、いや、それは』


 ニャンタカは面白いくらいにキョドった。わかりやすすぎる。


「ほのかに、そんなものは自分で夜に聞いてって言って。ニャンタカもさー、そんなふうに、いいように使われてるから、ほのかの恋愛対象にならないんだよ」

「は、はあ?」


 電話の向こうでニャンタカがテンパっているうちに、私は電話を切った。金魚は知らん顔でスイスイと水槽を泳ぎ回っている。

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