夜と最後の夏休み
「美海ー! 遊びに来たよー! 詩音だよー!」

「詩音!」


 ドアを開けると、満面の笑顔の詩音と、嬉しそうに手を振る夜がいた。


「あのね、美海にも手紙書いたんだけど、書きすぎて戻ってきちゃった」


 そういって、詩音から差し出されたのは、教科書の半分くらいの大きさの封筒で、ぱんぱんに膨れ上がっている。


「重すぎて、定形外なんだって」

「書きすぎでしょ」

「えへへ。美海に言いたいことがいっぱいあったから」


 照れたように笑う詩音の後ろで、夜が笑った。


「僕には言うことなかったの?」

「夜には会ってから言えばいいやって」


 夜が見せてくれた詩音からの手紙は、手紙というより学校のお知らせみたいだった。


「夏休みに行くっていうのと、いつ帰るかしか書いてない……」

「だからちゃんと届いたよ」


 なぜか詩音が胸を張る。別に褒めてない。


「……ほのかもこれくらい、はっきりしてればいいのに」


 ついこぼれた独り言は、詩音にも夜にも届かなかった。それでいい。
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