夜と最後の夏休み
03.謎
「おはよう、佐々木くん。一緒に宿題しない?」
夏休みが始まってすぐの、ある朝。
手伝いを終えて宿題をしようと思ったら、同級生の田崎ほのかが訪ねてきた。
「えっと、なんで僕?」
「佐々木くん、算数とか理科とか得意でしょ? わたし、理数科目苦手だから教えてほしくて」
最初に思ったのは「面倒くさい」だ。
そもそも僕はあまり機嫌が良くなかった。手伝いで皿を洗っても汚れや泡が残っていたり、洗濯物を干すのもしわくちゃになってしまって直されたり。
だから他人の宿題なんて見る気分じゃない。田崎さんはニコニコとこちらを見上げている。
「あー……そう。じゃあ図書館行こうか」
「佐々木くんの家でいいよ?」
「や、散らかってるから。準備するからちょっと待ってて」
なんとか田崎さんを玄関から出してドアを閉めた。自分の部屋に戻って宿題のワークを鞄に突っ込む。ついでに課題図書借りてこよう。
見回した自分の部屋は、もちろんちっとも散らかっていない。自分の部屋をきちんと片付けるのも、自由研究『自分のことは自分でやる』の一環だ。ここまできれいにするのも結構大変だった。
(なんとなく、入れたくないんだよな)
なんでかなんて説明できないけど、親にだって入ってほしくない。美海と詩音以外は、僕の部屋には入れたくない。なんでその二人がいいのか、それもわからないんだけど。
もし僕の部屋が本当に散らかっていたとして。そこに、美海と詩音が遊びにきたとして。きっと僕は
「散らかってるんだ。ちょっと片付けるの手伝ってよ」
なんて言うだろう。あの二人は他の人と違うんだ。
だから、美海と詩音の二人と同じ距離感で他の人に近づかれるのは、あんまり嬉しくない。正直苦手だ。
けど田崎さんがまったくの他人かっていうと、そんなことはないはず。だって、それこそ美海と同じで幼稚園のころから小学校六年間まで、ずーっと同じクラスだ。各学年一クラスしかない田舎だから、同級生はだいたい全員そうなる。ニャンタカだってそう。
なのに美海とそれ以外は違う。なんでだ。お隣だからかなあ。
そんなことを考えながら玄関に向かう。
「おまたせ」
「ううん。行こう」
田崎さんは笑顔でスカートをひるがえした。ふわりと揺れる裾が夏っぽい。美海が着てたらかわいいんだろうな。
別に田崎さんが嫌いなわけではないはずなのに、なぜか僕はここにはいない美海のことばかり考えていた。
夏休みが始まってすぐの、ある朝。
手伝いを終えて宿題をしようと思ったら、同級生の田崎ほのかが訪ねてきた。
「えっと、なんで僕?」
「佐々木くん、算数とか理科とか得意でしょ? わたし、理数科目苦手だから教えてほしくて」
最初に思ったのは「面倒くさい」だ。
そもそも僕はあまり機嫌が良くなかった。手伝いで皿を洗っても汚れや泡が残っていたり、洗濯物を干すのもしわくちゃになってしまって直されたり。
だから他人の宿題なんて見る気分じゃない。田崎さんはニコニコとこちらを見上げている。
「あー……そう。じゃあ図書館行こうか」
「佐々木くんの家でいいよ?」
「や、散らかってるから。準備するからちょっと待ってて」
なんとか田崎さんを玄関から出してドアを閉めた。自分の部屋に戻って宿題のワークを鞄に突っ込む。ついでに課題図書借りてこよう。
見回した自分の部屋は、もちろんちっとも散らかっていない。自分の部屋をきちんと片付けるのも、自由研究『自分のことは自分でやる』の一環だ。ここまできれいにするのも結構大変だった。
(なんとなく、入れたくないんだよな)
なんでかなんて説明できないけど、親にだって入ってほしくない。美海と詩音以外は、僕の部屋には入れたくない。なんでその二人がいいのか、それもわからないんだけど。
もし僕の部屋が本当に散らかっていたとして。そこに、美海と詩音が遊びにきたとして。きっと僕は
「散らかってるんだ。ちょっと片付けるの手伝ってよ」
なんて言うだろう。あの二人は他の人と違うんだ。
だから、美海と詩音の二人と同じ距離感で他の人に近づかれるのは、あんまり嬉しくない。正直苦手だ。
けど田崎さんがまったくの他人かっていうと、そんなことはないはず。だって、それこそ美海と同じで幼稚園のころから小学校六年間まで、ずーっと同じクラスだ。各学年一クラスしかない田舎だから、同級生はだいたい全員そうなる。ニャンタカだってそう。
なのに美海とそれ以外は違う。なんでだ。お隣だからかなあ。
そんなことを考えながら玄関に向かう。
「おまたせ」
「ううん。行こう」
田崎さんは笑顔でスカートをひるがえした。ふわりと揺れる裾が夏っぽい。美海が着てたらかわいいんだろうな。
別に田崎さんが嫌いなわけではないはずなのに、なぜか僕はここにはいない美海のことばかり考えていた。