詩音と海と温かいもの

03. 微光:矢崎詩音は友達の兄の後を追う

 春休み中、私……矢崎詩音は美海の家でお世話になることになった。

 二日目の朝起きると、隣の布団で美海が寝ていて、嬉しくてつい寝顔を眺めてしまう。

 廊下から足音がして、洗面所で水を流す音が聞こえたから、静かに部屋を出た。


「詩音ちゃん、おはよう。早いね」

「匠海さん。おはようございます」


 美海のお兄さんの匠海さんが顔を洗っていた。

 私も顔を洗って歯を磨く。部屋に戻って着替えていると、美海がぼんやりした顔で起きてきて、洗面所に向かった。

 布団を畳んで、美海が着替えるのを待ってから台所に行くと、匠海さんがパンケーキを焼いていた。


「わあ、おいしそう!」

「だろ? そこのサラダ、皿の端に乗せといて」

「はい!」


 匠海さんを手伝って朝ごはんを用意していると、パパさんとママさんが起きてきた。

 金魚に餌をあげていた美海もやってきて、一緒に朝ごはんを食べる。


「おいしい。 お兄ちゃんの作るごはんはおいしいねえ」

「だろー? まだあるから好きなだけ食え」


 美海はいつも匠海さんのごはんを「おいしいおいしい」と言って食べている。昔、パパさんとママさんが介護で家にいられなかったとき、匠海さんと美海の二人で暮らしていた頃からだと、夜が教えてくれた。

 匠海さんがもうすぐ家を出るから、美海が寂しいのもあると思う。


 でも、おいしいのは本当だ。

 ふかふかのパンケーキに、シャキシャキのサラダ。ドレッシングも、さっき匠海さんが作っていた。


「匠海さん、このサラダおいしいです」

「そらよかった。詩音ちゃんもありがとね、手伝ってくれて」

「お兄ちゃん、夜に『手伝ってくれてありがと』なんて言ったことないのに」

「あれは手伝いじゃなくて教えてるから」

「あの、私も教えてもらっていいですか?」


 私が聞くと美海が目を丸くして、匠海さんは目を細くした。

 表情は真逆なのに二人はやっぱりそっくりで、ちょっとおもしろい。


「いいよ。つっても俺も引っ越しの準備があるから昼と晩飯のときだけ」

「ありがとうございます!」

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