詩音と海と温かいもの
 ごはんの後はママさんとお金の話をして、私が食べる分の食費を渡すのと、家のお手伝いをすることになった。

 といっても私は家のことなんて全然できないから、そこは美海に教えてもらいながら。

 美海は嫌な顔一つせずに、下手くそな私にいろいろ教えてくれた。

 夜もしょっちゅう、というか毎日遊びに来て、一緒に宿題をしたり図書館に行ったりした。

 逆に夜の家に行ってゲームをすることもあるけれど、そういうときは私は遠慮することが多い。


「あの、匠海さん今いいですか?」

「いいよ。あ、でも散らかってるから足元気をつけてな」


 美海が夜の家に行っている間、私は匠海さんの部屋に行く。荷造りやゴミ捨てを手伝ったり、置いていくという雑誌やマンガを借りて読んだりしていた。


「匠海さん、引っ越しは明後日ですよね」

「うん。詩音ちゃんの始業式っていつだっけ?」

「四月の二週目です。一週目には寮に入れるから、そこで戻ろうかなって思ってます」

「わかった。そのタイミングで迎えに来るよ」


 匠海さんがあまりにも当たり前みたいに言ったから、反応が遅れた。

 え、なんで。


「そんな、悪いです。一人で戻れます」

「荷物重いだろ。……あ、俺のと一緒に送ればいいのか」

「えっ」

「教科書とか夏服とか、すぐ使わないものは俺の引っ越し荷物と一緒に送ればいいよ。で、寮に戻るときに運ぶの手伝うし」


 私が返事をする前に、匠海さんは立てかけてあったダンボール箱を組み立て、マジックでさらさらと『詩音ちゃん』と書いて差し出した。


「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」


 箱を受け取って、一階の借りている部屋に運んだ。

 今は着ないコートと一年生のときの教科書なんかを入れてから、匠海さんの部屋に戻った。


「早かったな。じゃあ、そこ置いておいて。あと連絡先教えて? 迎えに行くときに連絡するから」

「はい!」


 スマホの連絡先に『川瀬匠海』が一行増えた。

 嬉しいな。

 少し迷ってから、その名前をタップしてお気に入りマークを付けておいた。


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