詩音と海と温かいもの

04. 同時:川瀬匠海は少女をつい甘やかした

 三月末、俺……川瀬匠海は実家から出て一人暮らしを始めた。

 妹とその彼氏と友達に見送られて家を出て、手続きのために親父が着いてきた。

 段ボールだらけの部屋で親父がカーテンをつけてくれて、ついでに家電の設置も手伝ってくれた。


「ありがと」

「おう。困ったら言えよ。匠海はしっかりしてるけど、でも、頼ってくれたら嬉しい」

「うん、もうしばらくは頼らせてよ」


 その後二人で近所でラーメンを食べて、親父を駐車場まで送った。

 車に乗る直前、親父は少し迷ってから俺を見た。


「あー、あのさ。詩音ちゃん、たまに様子見てあげて」

「うん。言われなくてもそうするけど」

「……ほら、春休みの間、うちにいただろ? それをあの子のばあさんがよく思ってなくてさ。詩音ちゃん、食費をうちにいれてくれてたんだよね。それを、うちが出しゃばったから、ばあさんの懐に入らなかったっつって怒鳴り込まれて」


 言葉が出なかった。

 あの子の周りの大人は、あの子をなんだと思っているんだろう。


「だから、まあ、匠海に余裕があるときだけでいいんだけどさ、よろしく」

「わかった」


 親父はひらひら手を振って車に乗り込んだ。

 車が見えなくなるまで見送った。

 部屋に戻ってシャワーを浴びる。

 ベッドは組み立ててあったから、寝転がると新しい家具の匂いがして、ちょっとテンションが上がった。

 でも疲れていたからか、目を閉じたらあっという間に寝てしまった。


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