詩音と海と温かいもの
 半月後、ゴールデンウィークが近くなっていた。

 とはいえ、春休みと違って、ゴールデンウィーク中は寮は閉まらない。

 試合がある部活が多いし、飛び石連休だから。

 でも……。

 私は寮の掲示板を睨んでいた。


『ゴールデンウィーク中に帰省する生徒は二十日までに申請を出してください』


 どうしよう。

 スマホを見る。

 今日は十八日。

 去年はもちろん寮にいたけど、今年はどうしよう。

 匠海さんと一回くらいごはんに行きたいけど、忙しいんじゃないかなあ。

 大学生が何してるかとか全然わかんなくて、新学期に入ってから匠海さんに連絡できてなかった。

 ゴールデンウィークの予定、聞いてもいいかなあ。

 あれこれ悩んでから、事務所で申請書だけもらって部屋に戻ることにした。

 部屋のドアノブに手をかけたところで、スマホが震えた。


「あ、わっ、匠海さん!?」

『詩音ちゃん、今いい?』

「はい、大丈夫です。ちょっと移動するから、待ってて」


 急いで寮のエントランスに向かった。

 エントランスの隅の通話室に入って、スマホを耳に当てた。


「お待たせしました。どうしたの?」

『ゴールデンウィークの予定聞こうと思ってさ。飯行かない? 暇だったらまたうちに泊まっていってもいいし』

「いいの!? 私も聞こうと思ってたけど、匠海さんが忙しいかわからなくて、困ってたんだ」


 スマホの向こうでクスクスと笑い声が聞こえた。


『ばーか。そういう遠慮するなって言ってるだろ。バイトがある日もあるけど、詩音ちゃんと飯食う時間くらいある』


 匠海さんは高校の時から中華料理屋さんでバイトしていた。

 今も同じところで働いてるみたい。


「ありがとう、匠海さん。私は部活も用事もないし、いつでも大丈夫。あ、でも宿題がかなり出るみたいで、二日くらい潰れそう」

『なら宿題持っておいでよ。俺もあるだろうし。一緒にやろうぜ』

「うん!」


 結局、ゴールデンウィークの半分くらい匠海さんの部屋に行く約束をして、電話を切った。

 電話室を出て事務所に向かう。

 外泊の申請書を書いて提出してから、部屋に戻った。


「どしたの、ご機嫌じゃん」

「うん、ゴールデンウィークの予定立ててきた」

「彼氏?」

「だから違うって! そんなんじゃないよ」

「でも、かっこいいんでしょ?」

「かっこいいけどさあ」


 かっこいいからこそ、私にはもったいないよ。

 きっと大学ですぐに彼女作っちゃうんだろうなあ。

 楽しい気持ちがしぼみそうだったから、急いでスマホの予定表に匠海さんと会う日を登録した。


< 21 / 33 >

この作品をシェア

pagetop